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札幌高等裁判所 昭和26年(う)965号 判決 1952年3月12日

控訴人 被告人 高田力三郎

弁護人 芳賀栄造

検察官 樋口直吉関与

主文

原判決を破棄する。

本件を夕張簡易裁判所に差し戻す。

理由

弁護人芳賀栄造の控訴趣意は同人提出の控訴趣意書記載の通りである。

同控訴趣意第一点について。

原判決は「被告人は藤本又は山田昌根こと崔昌根から頼まれて二百五十平方粍第四種電線約二百六十米を盗品であることを察しながら運搬した」旨判示しているが原判決挙示の各証拠を検討するに右賍物の種類数量に符合する証拠として加藤清名義の盗難届謄本あるのみであつて之は同書記載の如き盗難があつた事実の証明ではあるが之のみを以つては右被害品が本件運搬の賍物であるということの証明とはなり得ない、然るに被告人が運搬して橋本守方に保管を託したものは百平方粍ゴム線四叺と同四束合計五十七貫であることは原審で取調べた斉藤久蔵提出の顛末書謄本の記載によつて明かであり之は前記加藤清提出の盗難届謄本記載の電線とは種類数量の点よりして同一物であることは断定し難い、然るに原審に於ては此点について何等審究することなく被告人は右加藤清提出の盗難届謄本記載の電線を運搬した旨認定したのは理由にくいちがいがあるか事実誤認の違法があるというべく論旨は理由があり原判決は破棄を免れない。

同控訴趣意第二点について、

同控訴趣意は原判示一、三は一個の行為であるのに二個の行為として併合罪の加重をしたのは法令の適用を誤つたものであるというのであるが本件起訴状には「被告人は……崔昌根から依頼を受け同人等が窃取して来た二百五十平方粍第四種電線約二百六十米をその賍物であることを知りながら昭和二十六年九月二十六日頃夕張市……平和炭配所附近畠地から夕張市通称二股峠の……警察電話夕張線路第六百五十五号電柱附近迄、同二十八日頃右電柱附近から同市富野……橋本守方迄それぞれ荷馬車で運搬し以て賍物の運搬をなしたものである……罪名賍物運搬刑法第二百五十六条第二項」と記載してあり右九月二十六日頃と同月二十八日頃の二回の運搬を二個の犯罪事実として起訴したものであるかどうかは必ずしも明瞭ではない。斯る場合原審ではよろしく釈明権を行使して訴因を明確にし被告人に十分防禦の機会を与えて審理を進めるべきであるのに拘わらず之を為さず慢然二個の罪と認め併合罪として処断したのは刑事訴訟法第三百十二条第二項に違背しそれが判決に影響を及ぼすこと明らかな場合であるから結局論旨は理由あることに帰し原判決は此点に於ても破棄を免れない。

よつて爾余の争点の判断を省略し刑事訴訟法第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四〇〇条本文によつて之を原裁判所に差し戻すこととし主文の通り判決する。

(裁判長判事 黒田俊一 判事 佐藤竹三郎 判事 三橋弘)

弁護人芳賀栄造の控訴趣意

第一、原判決には事実の誤認がある。

即ち本件賍物である電線は佐藤光雄崔昌根の両名が窃取したもので同人等は右電線を窃取するに際し電線を約十米内外に切断したものを十五束にして窃取して之を崔昌根が草原に隠しておき翌日同人が自宅から叺四俵持つて来て之に詰めたが四束の余りが出来た被告人高田力三郎は右崔に依頼され四叺と四束の電線を馬車で運び知人の橋本守方に預けてあつたのを平和礦第三礦監察員斉藤久義が昭和二十六年十月二日右橋本守から之を受取り一旦夕張市警察署に差出し平和礦機電主任加藤清が同警察署より仮下げを受けておる

処が佐藤光雄外二名の窃盗事件に於て前記平和礦機電主任加藤清は電線二百六十米の盗難届を提出しておるが前記橋本守方に預けてあつた四叺と四束の電線の長さを計らず之を二百六十米あるものと軽信して前記佐藤光雄外二名の窃盗事件及本件賍物運搬事件を起訴した

然るに右佐藤光雄等の窃盗事件は目下夕張簡易裁判所に於て続行中であり本弁護人及古荘弁護士の二人が同事件を担当して居るが同事件の公判に於て右佐藤被告人等は盗んだ電線は一本十米内外に切断して十五束作つたので其の長さは合計して約百五十米であると供述したので前記加藤機電主任に電話で照会した処警察から受領した電線は四叺と四束で合計の長さは百四十九米であることが判明した次第で検事も起訴状の訂正を一度は約束したが未だ加藤が盗難届を訂正しない為め其の侭になつておる次第である加藤清が何故実際より多い数量の盗難届を提出したかについては自ら長期間に亘り多量の電線を横領売却した事実が発覚し既に夕張市警察署に於て其の取調も終了し近く岩見沢支部検察庁に送致されることになつておるので近く其の取調べにより其の間の事情判明するものと信ずる何れにしても本件被告人高田力三郎が運搬した銅線は四叺と四束で其長さは合計して百四十九米であることは別紙疏明資料によつて明である果して然らば原判決が二百六十米の賍物電線を運搬したと認定したのは明に採証を誤りたるもので事実の誤認であり其の金額に於ても莫大なる差異があるから此の点に於て原判決は破棄されるべきものと信ずる(疏明資料加藤清の盗難届写一通同人の受領証写一通同人の本弁護人宛受領証明書一通斉藤久義の顛末書写一通夕張簡易裁判所佐々木書記官補の証明書一通札幌検察庁岩見沢支部中村検察事務官の証明書一通添付)

第二、原判決は本件の第一行為と第二行為とを各別個の罪として併合罪加重刑を適用して居るが本件第一行為と第二行為とは合して同一行為を構成するもので別個の行為ではない即ち被告人は崔昌根から被告人の知つた家迄運搬して預けておいて呉れと頼まれ被告人の知人である夕張市富野橋本守方迄運搬して同人に預ける積りであつたが第一日には夕方から運搬にかかつた為め時間が遅くなつたので一応途中の草原におき日を改めて更に其処から右橋本守方迄運搬して同家に預けたので運賃も合計して一回に貰つておる一度運賃を受取りたる後ち運搬したものではない(山田昌根に対する巡査部長扇谷直治作成の第三回供述調書中第八項第九項第二回公判調書中被告人に対する回答参照)

是れは恰も本道から内地に馬鈴薯石炭其の他の貨物を貨車送りする際に鉄道では必ず途中で一二回は其の貨車を切り離して途中の駅に一時放置し更に日を改めて別の機関車に牽かせて送り或は台車其のものの積み替えをすることもあり斯かる運搬行為は二個又は三個の運搬行為と見るべきでなく一個の運搬行為である本件も是と同一で最初から被告人が橋本守方迄運搬する目的であつたのだから途中一度荷を下し日を改めたとしても其の時間は僅少であり同じ日の間に一度途中で下して休憩し再び荷を積み一日又は一昼夜或は二昼夜かかつて目的地迄運んだ場合と何等異る訳はない従つて本件は第一と第二を合して「昭和二十六年九月二十六日頃より同月二十八日頃迄の間に夕張市平和一番地平和炭配所附近から同市富野橋本守方まで運搬し」と事実を記載すれば足り従つて併合罪加重の刑を適用すべきではない

然るに原判決が慢然検事の起訴状の事実にとらわれ恰も別個の賍物を運搬した場合の如き錯覚に陷り二個の行為として認定したのは事実の誤認があり且つ法令の適用を誤つている

(その他の控訴趣意は省略する。)

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